科学の方面からイチョウ葉の抽出物を覗きみる 2011-10-01
キロン株式会社 代表取締役 荒井伸一 2011-10-01
ドイツやフランスでイチョウの葉の抽出物は医薬品であるところから、それについての研究論文は、簡単に見つけ出すことができます。
その内容は、アルツハイマーの改善、記憶力の改善、抗酸化作用、海馬の保護作用など。イチョウ葉の抽出物は、脳に良いようです。
では、それはどうはたらくのでしょうか?
ある物質の科学的な概要を知りたいときは、「レビュー」を読むことをお勧めします。
レビューとは、研究対象についての先行論文をいくつも紹介して、事実に迫ろうとする論文のことです。
イチョウ葉の抽出物については、素晴らしいレビューがあります。
南ミシシッピ大学のJ. V. Smith 氏と Y. Luo 氏による「 EGB761 」のレビューがそれです。
ネットにも公開されている論文ですので、詳しくお知りになりたい方は
Studies on molecular mechanisms of Ginkgo biloba extract
Appl Microbiol Biotechnol (2004) 64: 465-472
J. V. Smith . Y. Luo
の検索で、原文を読むことができます。
ちなみに「EGB761」は、世界で初めてイチョウの葉から有効成分を取り出して製剤化した、ドイツシュワベ社の商標です。
では、イチョウ葉抽出物の働きを見てみましょう
両氏の報告するレビューから、アンチエイジングに関係する報告を引用して、その解説を試みます。
「ギンコ ビロバ エクストラクト ( イチョウ葉の抽出物 ) の
分子学的メカニズムに関する研究」
Studies on molecular mechanisms of Ginkgo biloba extract
Appl Microbiol Biotechnol (2004) 64: 465-472
J. V. Smith . Y. Luo
このレビューはまず、イチョウ葉抽出物には2つの成分があり、それらがユニークな薬理作用をもっている、というところから始まります。
1 テンペル
2 フラボノイド
そしてテルペンは以下に分類されています。
a、ギンコライド A、B、C、J、M
b、ビロバライド
では、ギンコライドの効果です。
「 ギンコライドは血小板活性化因子 (PAF) のアンタゴニストで、血小板
活性化および凝集を阻害する。それによって血液循環を改善する 」
アンタゴニストとは、ある作用を阻害する物質 ( 拮抗物質 ) のことです。
つまり、ギンコライドには、血栓の形成を防ぐ作用がある。
フラボノイドは抗酸化作用を発揮します。
「 フラボノイドは、芳香環および二重結合によって構成されている。
それによって、ヒドロキシルラジカルにより反応しやすく、直接的スカベンジ作用を
有する 」(2)
ヒドロキシルラジカルは、フリーラジカルです。 このラジカルは、他の物質と反応しやすく、糖、脂質、タンパク、DNAを傷つけます。
ニューロンを形成する物質である不飽和脂肪酸も、このラジカルによって酸化ダメージを負います。イチョウのフラボノイドは、抗酸化に有効です。
「 SOD ( superoxide dismutase ) のような抗酸化タンパク質の発現、グルタチオン
のような抗酸化代謝物質を増加させる 」(3);(4)
SODは、前出のヒドロキシルラジカルを無害化する酵素です。でもSODは、加齢とともに減少します。
この報告は、イチョウ葉抽出物がSODを増やすことを示すものです。
イチョウのサプリメントを摂りいれることで、加齢の速度をいくらか緩やかに
できそうですね。
「 フラボノイド上の水酸基は prooxidant transitional metal ions (例えばFe2+) と
結合してキレート環を作る 」(3)
「 それにより新たなヒドロキシラジカルの生成を阻害する 」(2);(5)
鉄の錆びやすさは、生体内の鉄も同じです。主な、フリーラジカルの発生原因は、鉄です。これは、フラボノイドが鉄と反応して酸化を防ぐという報告です。
イチョウ葉抽出物の主要な効果をまとめてみました。
1 フリーラジカル、酸化ストレスについての効果
「 それはフリーラジカルスカベンジャー活性化作用をもっている 」
「 ROS ( reactive oxygen species ) の組織内濃度を減少させる 」(6);(7);(8)
ROS ( 活性酸素種 ) は、フリーラジカル、活性酸素の総称です。イチョウ葉の抽出物はそれを減らす、というこれも、抗酸化作用についての報告です。
「 膜脂質過酸化反応を抑制する 」(6)
膜脂質過酸化反応とは、脂質酸化が連鎖する現象のことです。
あるきっかけで水素を引き抜かれた脂質が、フリーラジカル化すことから始まります。
ラジカルと化した脂質は、ほかの物質から電子を奪いとっては、また別なラジカルを増やしてしまう。 さらに、その増えたラジカルが、健全な別の脂質の水素を引き抜いて・・・といったように、この膜脂質過酸化反応とは、脂質においての、ゾンビ徘徊の構図です。
この報告は、フラボノイドがそうした連鎖反応を抑制するというものです。
ちなみに、ゾンビと化した脂質をもとに戻す物質物に、ビタミンEがあります。
ではビタミンEをサプリメントでたくさん摂れば良いかというと、高容量のビタミンEは、中性脂肪を引き上げることもありますから、注意が必要です。
抗酸化の点でサプリメントを摂るのなら、植物由来であるフラボノイドのほうが使いやすいでしょう。
2 イチョウ葉抽出物の抗ストレス作用
「 副腎皮質のPBR ( peripheral-type benzodiazepine receptor ) の発現を減らす 」(6)
PBRとは、末梢型ベンゾジアゼピン受容体のことで、コルチゾールの合成に
かかわる受容体です。 副腎皮質に多くあります。 イチョウ葉の抽出物は、コルチゾールの生産量を減らします、という報告です。
コルチゾールは、生きてゆくのに不可欠なホルモンではありますが、多すぎては、生体に様々な障害を起こします。。
ここでの話題にふさわしいのは、コルチゾールの大量発生すなわち過剰なストレスが、海馬を委縮させることでしょう。
コルチゾール分泌が続くと、ニューロンの「興奮毒性死」を作動させます。それは、ある受容体が過剰に刺激されることで、ニューロン内に、カルシウムイオンが大量に流入して起こる、ニューロン死滅因のひとつです。
そしてそれはとくに、海馬のニューロンで起こる事態です。
海馬のダメージは、困りものです。海馬は、記憶を定着させたり、呼び起こしたりする、記憶の統合器官。またそこでは、ニューロンが新生するとも言われています。さらに海馬は、そうしたストレス反応を、抑制せよ、と生体内に指令する場所でもあります。
この海馬へのダメージは、ストレスとうつ病との関係の一側面でとも言われています。
うつ病を患った人の海馬には萎縮がみられ、したがって、記憶力は低下し抗ストレス力もさらに落ちて悪循環に移行する。
イチョウ葉抽出物の、コルチゾール減少作用は、ストレスを多く受ける環境にある頭脳には頼もしい報告です。
「 脳のモノアミン酸化酵素 ( MAO ) 活性を低下させる 」(9)
MAO ( モノアミンオキシダーゼ ) 阻害薬は脳のドーパミン濃度を上げます。
そこでMAO阻害薬は、アメリカでは、抗うつ剤としても使用されることもあります。これは、イチョウ葉の抽出物の抗うつ作用を示す報告です。
3 神経のアポトーシスへの作用
「 ニューロンのアポトーシスの減少 」
(10);(11);(12)
アポトーシスとはプログラムされた細胞の死滅、細胞の自殺と言われる現象で、ニューロン死滅原因のひとつです。
またイチョウ葉抽出物は、それ以外の細胞死滅因である酸化、アミロイドベータの付着、興奮毒性死を改善するという報告があります。
4 認知機能、記憶への効果
「 意思決定能力や高齢動物における新しいスキルの習得、ストレスへの応
答や気分の変化といった因子に対して有益 」(9):(13)
「 神経芽細胞腫細胞におけるアミロイドベータの凝集抑制 」(11)
DNAが損傷を受けると、異常なかたちのタンパク質を作ることがあります。
たとえば脳内においては、タンパク質製造の過程で、本来は、内側に折りたたまれるべき油性部分が、外にむき出しとなる。それが、同様の異常タンパク質と癒着して塊と化してしまう。 その塊を、アミロイドベータと呼びます。
アミロイドベータは、アルツハイマー病の原因のひとつとも見られています。
また、アミロイドベータが付着した神経細胞は、やがて衰弱して死んでゆくことも分かっており、そうした衰弱段階の神経細胞が、イチョウ葉の抽出物によって回復したという実験報告もあります。
上記の報告は、アミロイドベータの形成を、イチョウ葉抽出物が抑制するというものです。
ちなみにこのレビューに、イチョウ葉の抽出物と「記憶力」との関連を報告する論文はありませんが、それはほかには多数あります。
たとえばNDMA受容体のノックアウトマウスにイチョウ葉抽出物を与えたらそのネズミの記憶力が戻ったという実験報告など。NDMA受容体は、長期記憶にかかわる受容体です。
5 血液、血流、血管への作用
「 血小板活性化因子 PAF 抑制効果による脳虚血の改善 」( 10 )
「 内皮由来血管弛緩因子 EDRF (Stimulation of endothelium-derived
relaxing factor) の刺激による動脈、静脈および毛細管の循環改善 」(14)
血管のもっとも内側に存在する内皮は様々な物質を分泌します。EDRF (NO、一酸化窒素) もそのひとつです。一酸化窒素は、血管弛緩させます。
血流を良くするということです。
6 神経伝達物質への作用
「 脳内のα1-アドレナリン受容体、5-HT1A ( セロトニン ) 受容体および
ムスカリン受容体の年齢による減少予防 」(6)
「 海馬の高親和性コリントランスポーターの取り込みの増加 」(6)
シナプス前細胞から放出された、神経伝達物質であるアセチルコリンは、シナプス後細胞の受容体を、活性化したあとで、急速に分解されます。 コリンエステラーゼによって、コリンと酢酸に。
シナプスは、信号伝達をするために、アセチルコリンを再度、保有しなければなりません。
しかし、ニューロンは、アセチルコリンの原料であるコリンを作れませんので分解されて周囲を漂うコリンを、再度、シナプス内に取りこむ必要があります。
海馬の高親和性コリントランスポーターとは、それらコリンの、取り込み口のことです。
これで、コリンのリサイクル効率は向上します。結果、アセチルコリンが増加する。
アセチルコリンは、記憶の形成、学習、行動に重要な神経伝達物質です。
それにしても、次の報告とあわせてみると、イチョウは、海馬にはとくに親切な物質です。
「 海馬のグルココルチコイド受容体のダウンレギュレーションの阻害 」(6)
イチョウ葉抽出物は、ストレスへの抵抗力を高めるという報告です。
これが言いたいことは、海馬のグルココルチコイド受容体の減少をくいとめる。この作用は、ある種の抗うつ薬が発揮する作用と同じです。
グルココルチコイド受容体とは、前にも述べたストレスホルモンであるコルチゾールの受容体のことです。海馬でのその受容体が活性化すると、コルチゾールの分泌は抑制へと傾きはじめます。つまり海馬は、生体のストレス反応を抑えるスイッチでもあるわけです。
だから海馬には、コルチゾールの受容体が多くあり、それゆえに、コルチゾールの分泌が過剰になると、それを受け止めきれずに、海馬は破壊されてゆく。
海馬のコルチゾール受容体の減少を防ぐこの効果は、ストレス環境に身を置くひとにとって助かります。繰り返しになりますが、海馬の損傷は、記憶や行動力の低下、欝病をまねくからです。
7 遺伝子発現への作用
「 ある特定の遺伝子の転写を調節する。その結果、細胞の抗酸化状態を
増加させ、酸化ストレス耐性を強化、伝達アセチルコリンの量も増える」(15)
「 DNA合成や修正、細胞周期における機能に関わるタンパク質の変化に
影響をあたえ、DNA損傷を抑制 する」(15)
こういった論文こそ読み込みたいものです。いずれ別なトピックスでの説明を試みたいと思います。イチョウ葉の抽出物は、血流を良くするから頭に良い、といわれたりしますが、そう単純な物質ではないようです。
8 その他
「 ミトコンドリアの呼吸調節比率の増加によるATPレベルを増加 」(1)
イチョウ葉の抽出物は生体内のエネルギーを増やすという報告です。
ほかにも高山病に有効であるという報告もあり、それはからだへの酸素の取り込み量が少なくなっても、細胞をよく働かすことのできる作用です。
山登りだけでなく、日常生活においても、酸素の取り込み量が減少する事態が生じます。集中状態にあるときに、わたしたちは呼吸することさえ忘れてしまいます。
高い集中力が必要なときに、イチョウ葉のサプリメントは、心強いですね。
「 抗炎症作用および脳障害に対する保護作用 」(16)
「 神経の可逆性への影響 」(6);(3)
イチョウは、弱った神経細胞を回復させる作用をもっているらしい。
References
(1) Defeudis FV (2002a) Bilobalide and Neuroprotection. Pharmacol
Res 46:565-568
(2) Zimmermann M, Colciaghi F, Cattabeni F, Di Luca M (2002)Ginkgo biloba extract: from molecular mechanisms to the
treatment of Alzheimer's disease. Cell Mol Biol 48:613-623
(3) Gohil K, Packer L (2002) Global gene expression analysis identifiescell and tissue specific actions of Ginkgo biloba extract, EGb761. Cell Mol Biol 48:625-631
(4) Oken B, Storzbach D, Kaye J (1998) The efficacy of Ginkgo bilobaon cognitive function in Alzheimer disease. Arch Neurol55:1409-1415
(5) Ni Y, Zhao B, Hou J, Xin W (1996) Preventive effect of Ginkgobiloba extract on apoptosis in rat cerebellar neuronal cellsinduced by hydroxyl radicals. Neurosci Lett 214:115-118
(6) DeFeudis F, Drieu K (2000) Ginkgo biloba extract (EGb 761) andCNS functions: basic studies and clinical applications. CurrDrug Targets 1:25-58
(7) Lien E, Ren S, Bui H, Wang R (1999) Quantitative structure-activityrelationship analysis of phenolic antioxidants. Free Radic BiolMed 26:285-294
(8) Smith J, Luo Y (2003) Elevation of oxidative free radicals inAlzheimer's disease models can be attenuated by Ginkgo bilobaextract EGb 761. J Alzheimer's Dis 5:287-300
(9) Pardon M, Joubert C, Perez-Diaz F, Christen Y, Launay J, Cohen-Salmon C (2000) In vivo regulation of cerebral monoamineoxidase activity in senescent controls and chronically stressedmice by long-term treatment with Ginkgo biloba extract (EGb761) Mech Ageing Dev 113:157-68
(10) Bastianetto S, Ramassamy C, Dore S, Christen Y, Poirier J, QuirionR (2000) The Ginkgo biloba extract (EGb 761) protectshippocampal neurons against cell death induced by betaamyloid.Eur J Neurosci 12:1882-1890
(11) Luo Y, Smith J, Paramasivam V, Burdick A, Curry K, Buford J,Khan I, Netzer W, Xu H, Butko P (2002) Inhibition of amyloidbetaaggregation and caspase-3 activation by the Ginkgo bilobaextract EGb761. Proc Natl Acad Sci USA 99:12197-12202
DeFeudis FV (1998) Ginkgo biloba extract (EGb 761): fromchemistry to clinic. Ullstein, Weisbaden, Germany
(12) Smith J, Burdick A, Golik P, Khan I, Wallace D, Luo Y (2002) Antiapoptoticproperties of Ginkgo biloba extract EGb 761 indifferentiated PC12 cells. Cell Mol Biol 48:699~707
(13) Cohen-Salmon C, Venault P, Martin B, Raffalli-Sebille M, BarkatsM, Clostre F, Pardon M, Christen Y, Chapouthier G (1997)Effects of Ginkgo biloba extract (EGb 761) on learning andpossible actions on aging. J Physiol 91:291-300
(14) Smith P, Maclennan K, Darlington C (1996) The neuroprotectiveproperties of the Ginkgo biloba leaf: a review of the possiblerelationship to platelet-activating factor (PAF) J Ethnopharmacol50:131-139
(15) DeFeudis FV (2002b) Effects of Ginkgo biloba extract (EGb 761)on gene expression: possible relevance to neurologicaldisorders and age-associated cognitive impairment. Drug DevRes 57:214-235
(16) Oberpichler H, Sauer D, Rossberg C, Mennel HD, Krieglstein J(1990) PAF antagonist ginkgolide B reduces postischemicneuronal damage in rat brain hippocampus. J Cereb Blood FlowMetab 10:133-135
その内容は、アルツハイマーの改善、記憶力の改善、抗酸化作用、海馬の保護作用など。イチョウ葉の抽出物は、脳に良いようです。
では、それはどうはたらくのでしょうか?
ある物質の科学的な概要を知りたいときは、「レビュー」を読むことをお勧めします。
レビューとは、研究対象についての先行論文をいくつも紹介して、事実に迫ろうとする論文のことです。
イチョウ葉の抽出物については、素晴らしいレビューがあります。
南ミシシッピ大学のJ. V. Smith 氏と Y. Luo 氏による「 EGB761 」のレビューがそれです。
ネットにも公開されている論文ですので、詳しくお知りになりたい方は
Studies on molecular mechanisms of Ginkgo biloba extract
Appl Microbiol Biotechnol (2004) 64: 465-472
J. V. Smith . Y. Luo
の検索で、原文を読むことができます。
ちなみに「EGB761」は、世界で初めてイチョウの葉から有効成分を取り出して製剤化した、ドイツシュワベ社の商標です。
では、イチョウ葉抽出物の働きを見てみましょう
両氏の報告するレビューから、アンチエイジングに関係する報告を引用して、その解説を試みます。
「ギンコ ビロバ エクストラクト ( イチョウ葉の抽出物 ) の
分子学的メカニズムに関する研究」
Studies on molecular mechanisms of Ginkgo biloba extract
Appl Microbiol Biotechnol (2004) 64: 465-472
J. V. Smith . Y. Luo
このレビューはまず、イチョウ葉抽出物には2つの成分があり、それらがユニークな薬理作用をもっている、というところから始まります。
1 テンペル
2 フラボノイド
そしてテルペンは以下に分類されています。
a、ギンコライド A、B、C、J、M
b、ビロバライド
では、ギンコライドの効果です。
「 ギンコライドは血小板活性化因子 (PAF) のアンタゴニストで、血小板
活性化および凝集を阻害する。それによって血液循環を改善する 」
アンタゴニストとは、ある作用を阻害する物質 ( 拮抗物質 ) のことです。
つまり、ギンコライドには、血栓の形成を防ぐ作用がある。
フラボノイドは抗酸化作用を発揮します。
「 フラボノイドは、芳香環および二重結合によって構成されている。
それによって、ヒドロキシルラジカルにより反応しやすく、直接的スカベンジ作用を
有する 」(2)
ヒドロキシルラジカルは、フリーラジカルです。 このラジカルは、他の物質と反応しやすく、糖、脂質、タンパク、DNAを傷つけます。
ニューロンを形成する物質である不飽和脂肪酸も、このラジカルによって酸化ダメージを負います。イチョウのフラボノイドは、抗酸化に有効です。
「 SOD ( superoxide dismutase ) のような抗酸化タンパク質の発現、グルタチオン
のような抗酸化代謝物質を増加させる 」(3);(4)
SODは、前出のヒドロキシルラジカルを無害化する酵素です。でもSODは、加齢とともに減少します。
この報告は、イチョウ葉抽出物がSODを増やすことを示すものです。
イチョウのサプリメントを摂りいれることで、加齢の速度をいくらか緩やかに
できそうですね。
「 フラボノイド上の水酸基は prooxidant transitional metal ions (例えばFe2+) と
結合してキレート環を作る 」(3)
「 それにより新たなヒドロキシラジカルの生成を阻害する 」(2);(5)
鉄の錆びやすさは、生体内の鉄も同じです。主な、フリーラジカルの発生原因は、鉄です。これは、フラボノイドが鉄と反応して酸化を防ぐという報告です。
イチョウ葉抽出物の主要な効果をまとめてみました。
1 フリーラジカル、酸化ストレスについての効果
「 それはフリーラジカルスカベンジャー活性化作用をもっている 」
「 ROS ( reactive oxygen species ) の組織内濃度を減少させる 」(6);(7);(8)
ROS ( 活性酸素種 ) は、フリーラジカル、活性酸素の総称です。イチョウ葉の抽出物はそれを減らす、というこれも、抗酸化作用についての報告です。
「 膜脂質過酸化反応を抑制する 」(6)
膜脂質過酸化反応とは、脂質酸化が連鎖する現象のことです。
あるきっかけで水素を引き抜かれた脂質が、フリーラジカル化すことから始まります。
ラジカルと化した脂質は、ほかの物質から電子を奪いとっては、また別なラジカルを増やしてしまう。 さらに、その増えたラジカルが、健全な別の脂質の水素を引き抜いて・・・といったように、この膜脂質過酸化反応とは、脂質においての、ゾンビ徘徊の構図です。
この報告は、フラボノイドがそうした連鎖反応を抑制するというものです。
ちなみに、ゾンビと化した脂質をもとに戻す物質物に、ビタミンEがあります。
ではビタミンEをサプリメントでたくさん摂れば良いかというと、高容量のビタミンEは、中性脂肪を引き上げることもありますから、注意が必要です。
抗酸化の点でサプリメントを摂るのなら、植物由来であるフラボノイドのほうが使いやすいでしょう。
2 イチョウ葉抽出物の抗ストレス作用
「 副腎皮質のPBR ( peripheral-type benzodiazepine receptor ) の発現を減らす 」(6)
PBRとは、末梢型ベンゾジアゼピン受容体のことで、コルチゾールの合成に
かかわる受容体です。 副腎皮質に多くあります。 イチョウ葉の抽出物は、コルチゾールの生産量を減らします、という報告です。
コルチゾールは、生きてゆくのに不可欠なホルモンではありますが、多すぎては、生体に様々な障害を起こします。。
ここでの話題にふさわしいのは、コルチゾールの大量発生すなわち過剰なストレスが、海馬を委縮させることでしょう。
コルチゾール分泌が続くと、ニューロンの「興奮毒性死」を作動させます。それは、ある受容体が過剰に刺激されることで、ニューロン内に、カルシウムイオンが大量に流入して起こる、ニューロン死滅因のひとつです。
そしてそれはとくに、海馬のニューロンで起こる事態です。
海馬のダメージは、困りものです。海馬は、記憶を定着させたり、呼び起こしたりする、記憶の統合器官。またそこでは、ニューロンが新生するとも言われています。さらに海馬は、そうしたストレス反応を、抑制せよ、と生体内に指令する場所でもあります。
この海馬へのダメージは、ストレスとうつ病との関係の一側面でとも言われています。
うつ病を患った人の海馬には萎縮がみられ、したがって、記憶力は低下し抗ストレス力もさらに落ちて悪循環に移行する。
イチョウ葉抽出物の、コルチゾール減少作用は、ストレスを多く受ける環境にある頭脳には頼もしい報告です。
「 脳のモノアミン酸化酵素 ( MAO ) 活性を低下させる 」(9)
MAO ( モノアミンオキシダーゼ ) 阻害薬は脳のドーパミン濃度を上げます。
そこでMAO阻害薬は、アメリカでは、抗うつ剤としても使用されることもあります。これは、イチョウ葉の抽出物の抗うつ作用を示す報告です。
3 神経のアポトーシスへの作用
「 ニューロンのアポトーシスの減少 」
(10);(11);(12)
アポトーシスとはプログラムされた細胞の死滅、細胞の自殺と言われる現象で、ニューロン死滅原因のひとつです。
またイチョウ葉抽出物は、それ以外の細胞死滅因である酸化、アミロイドベータの付着、興奮毒性死を改善するという報告があります。
4 認知機能、記憶への効果
「 意思決定能力や高齢動物における新しいスキルの習得、ストレスへの応
答や気分の変化といった因子に対して有益 」(9):(13)
「 神経芽細胞腫細胞におけるアミロイドベータの凝集抑制 」(11)
DNAが損傷を受けると、異常なかたちのタンパク質を作ることがあります。
たとえば脳内においては、タンパク質製造の過程で、本来は、内側に折りたたまれるべき油性部分が、外にむき出しとなる。それが、同様の異常タンパク質と癒着して塊と化してしまう。 その塊を、アミロイドベータと呼びます。
アミロイドベータは、アルツハイマー病の原因のひとつとも見られています。
また、アミロイドベータが付着した神経細胞は、やがて衰弱して死んでゆくことも分かっており、そうした衰弱段階の神経細胞が、イチョウ葉の抽出物によって回復したという実験報告もあります。
上記の報告は、アミロイドベータの形成を、イチョウ葉抽出物が抑制するというものです。
ちなみにこのレビューに、イチョウ葉の抽出物と「記憶力」との関連を報告する論文はありませんが、それはほかには多数あります。
たとえばNDMA受容体のノックアウトマウスにイチョウ葉抽出物を与えたらそのネズミの記憶力が戻ったという実験報告など。NDMA受容体は、長期記憶にかかわる受容体です。
5 血液、血流、血管への作用
「 血小板活性化因子 PAF 抑制効果による脳虚血の改善 」( 10 )
「 内皮由来血管弛緩因子 EDRF (Stimulation of endothelium-derived
relaxing factor) の刺激による動脈、静脈および毛細管の循環改善 」(14)
血管のもっとも内側に存在する内皮は様々な物質を分泌します。EDRF (NO、一酸化窒素) もそのひとつです。一酸化窒素は、血管弛緩させます。
血流を良くするということです。
6 神経伝達物質への作用
「 脳内のα1-アドレナリン受容体、5-HT1A ( セロトニン ) 受容体および
ムスカリン受容体の年齢による減少予防 」(6)
「 海馬の高親和性コリントランスポーターの取り込みの増加 」(6)
シナプス前細胞から放出された、神経伝達物質であるアセチルコリンは、シナプス後細胞の受容体を、活性化したあとで、急速に分解されます。 コリンエステラーゼによって、コリンと酢酸に。
シナプスは、信号伝達をするために、アセチルコリンを再度、保有しなければなりません。
しかし、ニューロンは、アセチルコリンの原料であるコリンを作れませんので分解されて周囲を漂うコリンを、再度、シナプス内に取りこむ必要があります。
海馬の高親和性コリントランスポーターとは、それらコリンの、取り込み口のことです。
これで、コリンのリサイクル効率は向上します。結果、アセチルコリンが増加する。
アセチルコリンは、記憶の形成、学習、行動に重要な神経伝達物質です。
それにしても、次の報告とあわせてみると、イチョウは、海馬にはとくに親切な物質です。
「 海馬のグルココルチコイド受容体のダウンレギュレーションの阻害 」(6)
イチョウ葉抽出物は、ストレスへの抵抗力を高めるという報告です。
これが言いたいことは、海馬のグルココルチコイド受容体の減少をくいとめる。この作用は、ある種の抗うつ薬が発揮する作用と同じです。
グルココルチコイド受容体とは、前にも述べたストレスホルモンであるコルチゾールの受容体のことです。海馬でのその受容体が活性化すると、コルチゾールの分泌は抑制へと傾きはじめます。つまり海馬は、生体のストレス反応を抑えるスイッチでもあるわけです。
だから海馬には、コルチゾールの受容体が多くあり、それゆえに、コルチゾールの分泌が過剰になると、それを受け止めきれずに、海馬は破壊されてゆく。
海馬のコルチゾール受容体の減少を防ぐこの効果は、ストレス環境に身を置くひとにとって助かります。繰り返しになりますが、海馬の損傷は、記憶や行動力の低下、欝病をまねくからです。
7 遺伝子発現への作用
「 ある特定の遺伝子の転写を調節する。その結果、細胞の抗酸化状態を
増加させ、酸化ストレス耐性を強化、伝達アセチルコリンの量も増える」(15)
「 DNA合成や修正、細胞周期における機能に関わるタンパク質の変化に
影響をあたえ、DNA損傷を抑制 する」(15)
こういった論文こそ読み込みたいものです。いずれ別なトピックスでの説明を試みたいと思います。イチョウ葉の抽出物は、血流を良くするから頭に良い、といわれたりしますが、そう単純な物質ではないようです。
8 その他
「 ミトコンドリアの呼吸調節比率の増加によるATPレベルを増加 」(1)
イチョウ葉の抽出物は生体内のエネルギーを増やすという報告です。
ほかにも高山病に有効であるという報告もあり、それはからだへの酸素の取り込み量が少なくなっても、細胞をよく働かすことのできる作用です。
山登りだけでなく、日常生活においても、酸素の取り込み量が減少する事態が生じます。集中状態にあるときに、わたしたちは呼吸することさえ忘れてしまいます。
高い集中力が必要なときに、イチョウ葉のサプリメントは、心強いですね。
「 抗炎症作用および脳障害に対する保護作用 」(16)
「 神経の可逆性への影響 」(6);(3)
イチョウは、弱った神経細胞を回復させる作用をもっているらしい。
References
(1) Defeudis FV (2002a) Bilobalide and Neuroprotection. Pharmacol
Res 46:565-568
(2) Zimmermann M, Colciaghi F, Cattabeni F, Di Luca M (2002)Ginkgo biloba extract: from molecular mechanisms to the
treatment of Alzheimer's disease. Cell Mol Biol 48:613-623
(3) Gohil K, Packer L (2002) Global gene expression analysis identifiescell and tissue specific actions of Ginkgo biloba extract, EGb761. Cell Mol Biol 48:625-631
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(6) DeFeudis F, Drieu K (2000) Ginkgo biloba extract (EGb 761) andCNS functions: basic studies and clinical applications. CurrDrug Targets 1:25-58
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